アレン・ネルソンとの十年 《5》

PTSD−アレンさん第二の戦い>         平塚淳次郎(宝塚9条の会)
ニールダニエルズ先生「何故殺したの?」

退役後七年、ニールダニエルズ先生との出会いがありました。先生は退役軍人の多くに見られる症状を、PTSD(心的外傷ストレス障害)としてとりあげ始めた精神科医の一人で、同時に非戦の立場を貫くクエイカー派キリスト教徒でした。先生は、夜眠れない彼にカセットテープをくれました。薬漬けの治療法に絶望していたアレンさんは、この人になら我が心を預け得ると考えました。
週に一度の個人カウンセリングにずっと聴き役を続けてくれる先生は、最後に必ず、「でもキミは何故人を殺したの?」と訊ねます。「戦争だから」「撃たなければ撃たれるから・・・」とアレンさん。黙って頷く先生。こういうやりとりが何と九年も続いたという。
ある日カウンセリングの冒頭にその問いが出されました。その日の先生の「何故?」はとどまるところなく続きました。―最終的に、引き金に指を充てて「その敵」を殺した直接の加害者は自分なのだという答えしかなかったのでした。
「自分が殺したかったからです」と認めることによって、遠い国まで出かけて罪も無い人びとを殺したという「戦場における殺人」という行為と正面から向き合うことができたのです。改めてとめどなく流れる涙の日が続きました。
 「アレンネルソン『戦場で心が壊れて』新日本出版社」を是非お読みください。 
<自分は「人を殺す人間」であり得るのか?>
ある高校の三年生対象の講演会で生徒から活発な質問も出ていよいよお終いかという時に、一人の先生が遠慮がちに発言されました。「この中に自衛隊に進む生徒が何人かいます。アレンさんの個人的なメッセージをお願いできませんか?」
それに対するアレンさんの答えが、上記の問いかけを絶えず自分に対して行って欲しいということでした。会場全体が静まりかえりました。