アレン・ネルソンとの十年 《2》                                   

<貧乏人は軍隊へ行け!>              平塚淳次郎(宝塚9条の会)
軍隊が学校の構内に事務所を構えて生徒に入隊の勧誘をするというスタイルが、貧しい地域を中心に広がっている、
というのはアレン講演で初めて知った驚きの一つでした。
ROTC(予備役将校訓練隊)プログラムと呼ばれる伝統的な軍学協力体制が背景にあります。
ベトナム反戦運動の昂揚の中、徴兵忌避が増加し、72年に徴兵(ドラフト)制度が廃止され、
志願兵(ボランテイア)を募集する必要が生じました。国防総省は巨額の予算を投じて、
中・高生対象のジュニアー版(JROTC)の活用を促進しているのです。
Peace Keepers(平和維持団体)=軍隊―ここに入れば「海外」へ行ける、「医療保険」が保証される、
「技術の修得」も可能、「大学進学の奨学金」も貸与される――と魅力的な勧誘の言葉が並びます。
希望生徒は、週に一度は軍服を着て登校し、校内で行進訓練など軍の規律をしつけられ、
軍の栄光を称える独自の歴史教育を受け、これらが進級・卒業の単位として認定される。
まさに「軍隊コース」が設定されていることになります。


2002年成立のNo Child Left Behind Act(落ちこぼれゼロ法)のもと、軍隊の勧誘員(リクルーター)は生徒の学校の成績は勿論、
家庭の経済状態なども細かく握って、卒業後の入隊を勧めます。
一人獲得ごとにボーナスもつくのです。「貧しい層の若者が」就職先に、あるいは大学進学準備の第一段階として、
「軍隊を選ぶことを余儀なくされる」現状はPoor Draft(貧者の徴兵)と呼ばれています。
「沖縄に駐留し、イラクアフガニスタンで、殺し、殺される役割を果たすのは、
決して中流以上の家庭の青年ではありません。いずれも貧困家庭の若者なのです。
ブッシュ大統領本人が自分の娘を戦場に送ることは決してないのです」と、現状を訴えたのはアレンさん。
その大統領の戦争方針にほとんど満場一致で賛成した上下両院の議員、
合計535人、の中で自分の子供を戦場に送っていたのは一人だけだった、という事実を明かにしたのは
マイケルムーア監督の映画「華氏9・11」でした。
イラク戦争反対運動がベトナム反戦ほど盛り上がらないのは、
自分の子供を戦場に送らなくて済む中上流層の多くがソッポを向いているからだ」と嘆いていたアレンさん。
日本の私は、「九条改正」を叫ぶ政治家及びそれを支持する人々、
特に友人・知人に「子供さんや孫さんを自衛隊国防軍?)に行かせないの?」と問いかけることにしています。



<アレンネルソン海兵隊入隊>
 アレンさんは1947年ニューヨーク、ブルックリンに生まれました。姉妹三人とシングルマザーの家庭事情から高校を中退し、1965年、18歳になるのを待って海兵隊に入隊したのです。徴兵制の時代とは言え、「大統領直属のエリート軍団」に採用された彼は鼻高々。母が泣き崩れる理由が判りません。腹いっぱいの食事、清潔な制服と兵舎という環境。早朝からの激しい新兵訓練の十二週間、中学時代に「オリンピックにも行けるぞ!」と言われていた抜群のアスリート・アレンはまさに水を得た魚でした。